昨年12月に山梨県の中央自動車道?笹子トンネル上り線で発生した天井板崩落事故で、原因調査の焦点は、巨大な天井板をつり下げる「アンカーボルト」に絞り込まれている。
ボルトは特殊な接着剤で固定されていたが、国土交通省の調査では約6割が想定強度を下回っていた。各ボルトは施工時に均等量の接着剤が使用されており、同省では経年変化による固着力の低下を想定していなかった設計、保守管理の両面に問題があったとみて調べている。
◆すすけたボルト◆
「ばらつきの多い結果は、なぜなのか」。国交省の調査検討委員会の今田徹委員長(旧?東京都立大名誉教授)は今月1日、同省が事故後、「強度試験」を行ったボルトで、183本中113本が設計上の想定強度を満たしていなかったことに疑問を投げかけた。
ボルトの想定強度は4トン超だが、113本中16本は天井板の重さ約1?2トンの荷重も支えられない状態だった。手がかりとなりそうなのが、ボルトごとに異なる接着剤の状態だ。
全長約20センチのボルトで、想定強度を満たしていなかったものは先端から約12センチにしか接着剤が付着していなかった。1?2トンを満たしていなかったボルトは先端から約9センチにしか付着しておらず、排ガスとみられる物質で黒くすすけていた。
◆穴の形状◆
強度試験で引き抜いたボルトは、接着剤が付着した範囲に差異があったが、施工した際のミスなどで接着剤の量が不足していた可能性は低いという。
施工手順では、アンカーボルトはトンネルの天井部分に穴を開け、そこに接着剤入りのカプセルを挿入してボルトを押し込む。カプセルが砕けて穴が接着剤で満たされる仕組みで、同省幹部は「手順を誤る可能性は少なく、接着剤の量が異なることは考えにくい」と指摘。別の幹部は「施工不良ならもっと早く不具合が出たはずで、経年変化と考えるのが自然」と語る。
ただ、穴の大きさに差があったり、ボルトの差し込み方が不適切だったりして、接着剤がボルトに十分に固着しなかったという可能性も残る。同省では今後、ボルトを引き抜いた後の穴の形状を調べ、内部の接着剤の状況などを調べる。