2013.5.18 11:05
「橋下さんって、本当はどういう人ですか」。私たちは、よくそうした質問を受ける。実際には「よくわからない」というのが正直なところである。
よく言えば、「本音の政治家」、あえて言えば、膨大な「本音」を発信し続けるがゆえに、「本当は何が本音なのか」「本音の向こうが見えにくい政治家」のような気もするのである。 以上は、大阪府知事時代から橋下徹大阪市長(日本維新の会共同代表)を間近で取材してきた大阪社会部記者たちがまとめた「橋下語録」(産経新聞出版発行)のまえがきである。 膨大な「本音」は、定例の記者会見のほか、朝夕に記者たちが取り囲んでの“ぶらさがり”、テレビ出演、そしてツイッターで発信される。付け加えると、会見や“ぶらさがり”は市長と政党代表の立場を区別して行われる。 これほど発言する政治家は珍しい。しかも、注目度が高くニュースになるから、一言一句、聞きもらすわけにはいかない。 慰安婦発言は13日午前の“ぶらさがり”で飛び出した。記者から安倍晋三首相の「侵略の定義は定まっていない」との発言に対する見解を問われて、「首相が言われている通りだ」と述べた後、唐突に慰安婦制度に触れた。 言いたかったのは「暴行、脅迫して拉致した事実は裏付けられていない」「違うところは違うと言わなければいけない」だと推察するが、「精神的に高ぶっている猛者集団に慰安婦制度が必要なのは誰だってわかる」という表現が刺激的で、メディアはこぞって取り上げ、内外に波紋を広げた。
さらに同日午後に「沖縄の在日米軍は風俗業の活用を」と発言して、火に油を注いだ。
本稿は橋下発言そのものではなく、橋下流の手法を考えたい。 橋下氏は翌14日は公務がなかったので市役所には登庁せず、ツイッターを30回以上更新して、持論、あるいは反論を展開した。ツイッター(twitter)は短文投稿サイトで「つぶやき」と訳されるが、英語では「鳥のさえずり」「興奮してしゃべりまくる」である。 ちぎっては投げで、野球に例えるなら、狙いすましたコントロールよりも相手をのけ反らせる剛速球だ。仮想敵を設定してケンカを売るのが橋下流で、その過激さが人気の源泉になっているが、今回に限っては裏目に出たのではないか。「本音」であり「持論」であるからこそ、慎重に言葉を選ぶべきだった。 結局、持論は撤回しないものの、「在日米軍の風俗業活用」は「国際感覚がなかった」と反省を口にした。一連の発言が反発を招いて、他党との選挙協力など日本維新の会の参院選戦略も見直しを余儀なくされそうだ。 一方、今回の問題とは直接は関係ないが、市長として公約していた大阪市営地下鉄の民営化や府市の水道事業の統合も思惑通りには進んでいない。 橋下流は軌道修正が必要ではないか。自身「あと数年たてば、賞味期限切れになる」と語っていたが、現実になるのは意外に早いかもしれない。(論説委員) |
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