あなたは、相続税対策で「配偶者控除」の制度を活用しての節税を考えていることと思います。 「配偶者控除」(正式には「配偶者の税額の軽減」)は、よく、「配偶者の相続する遺産が1億6,000万円までなら相続税がかからない制度」という説明がされます。しかし、この説明は、ともすれば誤解を招くおそれのある表現で、実際には、落とし穴があります。 この記事では、「配偶者控除」のメリットと落とし穴について、イメージしやすいように具体例を上げて説明します。 是非とも最後までお読みになって、「配偶者控除」の制度を正しく活用するためにお役立てください。 1.配偶者控除とは「配偶者控除」とは、相続税の計算をする際に配偶者が相続する分の額から1億6,000万円を差し引けるというものです。 これは、配偶者の生活を守るための制度と言われています。 「配偶者控除」は以下のように、相続税の計算の最終段階で行われます。 〈相続税の計算の順序〉 ※詳しくは「相続税の計算方法|マスターするための5つのステップ」をご覧ください。
具体的には、 ①法定相続分の額 ≦ 1億6,000万円 の場合
②法定相続分の額 > 1億6,000万円の場合
ということになっています。その結果、かなり多くのケースで、事実上、配偶者は相続税を支払わなくてよいことになります。 たとえば、あなたの遺産(課税価格)が2億円だとすると、配偶者の法定相続分は1億円(1/2)です。そのため、「①法定相続分の額 ≦ 1億6,000万円」のケースにあたります。 この場合、あなたが遺言で配偶者に1億2,000万円相続させると、全額あっさりと非課税となります。 ここで、あなたは、 「ならば配偶者の相続分を『配偶者控除』の限度額いっぱいにしておけば、配偶者は相続税ゼロだし、他の相続人の相続税も安くなるじゃないか!?」 とお思いになるかも知れません。 しかし、そううまくはいきません。そういう考えだけで「配偶者控除」の枠を活用してしまうと、後で思わぬ落とし穴が待っています。次をお読みください。 2.配偶者控除のメリットたとえば、あなたが都心の一戸建てに配偶者と2人で暮らしているとします。 あなたは、ご自身が亡くなった後も配偶者が家屋敷に住み続けられるようにしてあげたいとお思いになることでしょう。 しかし、配偶者に家屋敷を単独相続させると、「配偶者控除」の制度がなければ、相続税の負担が重くなってしまいます。最悪の場合、納税のために家屋敷を売り払わなければならなくなります。 そういう場合に、「配偶者控除」の制度を活用すれば、配偶者があなたから家屋敷を相続する段階では相続税がかからないことになるのです。 このように、特定の高額な財産を配偶者に単独で相続させなければならないやむを得ない場合に配偶者控除の枠を活用すると、大いにメリットがあります。 ただ、これには同時に落とし穴もあることを忘れてはいけません。次に説明します。 3.「配偶者控除」の落とし穴|配偶者が死亡する時のことまで含めて考えるべし「配偶者控除」には大きな落とし穴があります。単に「相続税を安くしたい」という理由だけで配偶者の取り分を多くすることはおすすめできません。それをすべきなのは、上で説明したように、配偶者にどうしても家屋敷等の特定の大きな財産を相続させたい、という特別の事情がある場合に限られると思ってください。 なぜならば、配偶者があなたから相続した財産は、最終的に配偶者から子に相続されることになり、その段階でかえって損をしてしまうリスクがあるからです。 どういうことなのか説明します。「法定相続人」の数と「基礎控除」の額に注目して、お読みください。 3-1.「配偶者控除」を受けると子の相続税が高くなってしまうポイントは「基礎控除」です。基礎控除の額は、 3,000万円+600万円×法定相続人数 です(基礎控除については「相続税対策の初歩?『基礎控除」について徹底解説」をご覧ください)。 そして、
とします。 あなたが死亡した時の相続(第一次相続)で配偶者の相続分を大きくして「配偶者控除」で相続税が軽くなったとしても、その後で配偶者が死亡した時の相続(第二次相続)では、結局その分の相続税がかかってくることになるのです。 その結果、「第二次相続」の時にかえって多額の相続税を支払うハメになってしまうというリスクがあるのです。 具体例で見てみましょう。 3-2.具体例以下の例について考えてみます。
「第一次相続」の時は法定相続人が配偶者と子2人の合計3人なので、基礎控除の額は 3,000万円+600万円×3人=4,800万円 です。 しかし、その後、配偶者が死亡して「第二次相続」が発生する時は、法定相続人が子2人なので、基礎控除の額は 3,000万円+600万円×2人=4,200万円 です。 この事例で、配偶者の相続分を100%(1億6,000万円)にして「配偶者控除」で相続税を「0円」にした場合と、そうしないで配偶者の相続分を法定相続分通りの8,000万円にした場合とを比較してみましょう。 第一次相続で配偶者の相続分を100%(1億6,000万円)にして「配偶者控除」で相続税を「0円」にした場合■第一次相続の時4,800万円の基礎控除がありますが、子2人にそもそも相続分がなく、配偶者も「配偶者控除」によって相続税が「0円」なので、結果的に4,800万円の基礎控除のメリットが全く受けられないということになります。 つまり、せっかくの基礎控除が「空振り」ということです。 ■第二次相続の時子が配偶者から相続する額は1億6,000万円になってしまいます。 そして、ここで初めて、4,200万円の基礎控除のメリットを受けられるだけです。 結局、子の世代になって相続税の負担が重くなってしまうというわけです。 第一次相続で配偶者の相続分を8,000万円(1/2)にした場合■第一次相続の時4,800万円の基礎控除が受けられ、また、配偶者は、「配偶者控除」で相続税がゼロになります。 つまり、基礎控除のメリットと「配偶者控除」のメリットをダブルで受けられるということです。 ■第二次相続の時子が配偶者から相続する額は8,000万円です。 しかも、4,200万円の基礎控除が受けられます。 つまり、第一次相続、第二次相続を通じて、最終的に、合計9,000万円の基礎控除のメリットが受けられるのです。 したがって、第一次相続で「配偶者控除」目当てで配偶者の相続分を多くすると、第二次相続の時にかえって損をしてしまうリスクがあります。 たとえば、ご自身の死後も配偶者が自宅に住み続けられるようにしてあげたいなど、やむを得ない事情がある場合に限った方が無難でしょう。 まとめ相続税の「配偶者控除」について、メリットと落とし穴の両方を説明してきました。 「配偶者控除」は、配偶者の相続税の負担を軽くできるというメリットがありますが、その反面、後で配偶者を相続する人の相続税の負担が重くなってしまうリスクがあります。その意味で、単に「節税」だけのためにその枠を活用するのはおすすめできません。 「配偶者控除」の枠の正しい活用法は、配偶者を自宅に住み続けてあげられるようにしたい場合等、特定の高額な財産を配偶者に単独で相続させなければならないやむを得ない事情があるケースに限られると言えるでしょう。 |
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